数学の世界

数学ガール」を読みました.いい本です.年末年始にぜひ一読を.

それにしても,あまりにもなつかしい景色でめまいを覚えました.自分も高校生時代にこうしてすごしていたのだと.男子校だったから,この本を彩る女の子たち-ミルカさんやテトラちゃん-とは無縁だったけれども,授業そっちのけで図書館のモノグラフシリーズを読み,テイラー展開からド・モアブル,そしてオイラーの公式.チェシャ猫が回る一次変換.グーデルマン関数.当時はパソコンもなく,仙台の片平にある古本屋で買った対数表片手に手作業でグラフ用紙にプロット.ひとつひとつ,美しさを味わいながら楽しんでいました(楽しみすぎて浪人しましたが......).この本の登場人物たちと違うのは,数学以外にも楽しみが多かったこと.ワンボードマイコンでのプログラミング(パソコンはまだなかった),ハンダゴテ握って電子回路製作,自然言語の人工的生成,渋滞のモデル化とシミュレーション.......なんだか,今やっていることとほとんど変わらないね.

でも大学に入って,そうしたことのすべてが打ち砕かれた思いでした.チェシャ猫の回転は,単なる線形代数の無味乾燥な演習問題になってしまったし.ド・モアブルもオイラー公式も自明な暗記すべき公式でした.学ぶべきことが多すぎて,一瞬で駆け抜けてしまいました.高校生時代に感じたあの美しい世界はすべて幻想だった??そして,そのことに何も疑問を感じない同級生たち.

でも,本当は高校生のときに感じていたことの方が真実だったと,今は思っています.たとえば線形代数は,まるでスペインのメスキータのような世界で,とてもとても奥までたどりつけない美しい世界だということがわかったし(松岡先生が「転置行列の意味はとても奥が深くて......ボクにも本当はわかりません」と絶句したところも,今は言わんとするところがわかります).そしてなにより,数学は誰かが作ったものを学ぶものではなく,自分で自由に発明しようとしたとき初めて美しさがわかるものだということも.

漫画版の数学ガールも読みましたが,数学の面白さをすっぱり取り去っていのがとても残念.漫画で数学と女の子との両方の魅力を描けていたらすごかったのにな.