Linear algebra

前にも紹介したが "Matrices and Linear Algebra" を読んでいる.これはすばらしい!感動しながら読んでいる.ベクトルというのはとても幅広い概念で,<数字の並んだもの>や<矢印>などではない.おおざっぱに言えば,線形性という美しい構造を持つものはすべてベクトル.その実体を計算するとき,<数字の並んだもの>で表現すると便利.だから<ベクトルの実体>と<ベクトルの数字列による表現>は別のもの.別なんだけど,でも同じ演算規則が成り立つなら,両者を同一視していい.......この<実体>と<表現>の違いについて,絶えず注意を払って丁寧に教えてくれる.<実体>は同じでも基底ベクトルが変われば<表現>も変わるということ.基底ベクトルもまた<数字の並び>ではなく実体があるということ.
脳やニューラルネットの話で言えば,<実体として存在する外界>と<センサを通して入ってくる外界の情報>もしくは(数字の並んだ普通の意味での)<ベクトルデータ>,そして<脳内に再構築された外界のイメージ>や<ニューラルネットが学習したモデル>はすべて異なっているわけで,このあたりを扱う基本になっているのだ.

とは言え,ガチガチ・ゴテゴテに難しい本格的な線形代数の本ではなく,あくまで大学1年生あたりを対象にした,しごく易しい教科書.英語も平明でわかりやすく,「英語は苦手~」と言う日本の学生でも平気.いや日本語のわかりにくい本と格闘するぐらいだったら,英語でもいいからこっちで勉強した方がいいかも.特に博士課程の学生には,平易な英文の書き方のお手本になるんじゃないかなあ.論文の中で使いたくなるような簡単で役に立つ表現がいっぱいだし.

この本,1968年に出版された本だった.良い本と言うのは古くならないのだね.