「Brain-IS研究」という新しいスタイル創出に向けて

Brain-Inspired Systems: Brain-IS とは、「脳科学からインスピレーションを得て創る知的システム」を意味します。すなわち、脳科学の成果に着想を得つつ、一方で大胆に換骨奪胎して工学システムとして実現するという新しい研究スタイルを提案するものです。

ニューラルネットワークブームからすでに四半世紀が過ぎ、またバイオニクスの時代からは半世紀が過ぎました。「生物の脳や神経を模して新しい知的情報処理機構を創る試み」は、大いに成功を収めた領域もあれば、今も悪戦苦闘を続けている領域もあります。比較的シンプルな系や、感覚系・運動系などでは成功しているケースが多いようですが、真に知的情報処理の中枢ともなれば、まだまだこれからという状況です。そもそも生物を模して創ろうにも、肝心の脳科学の面でも不明な点が多く、とても即座に模倣できそうにありません。

そこでBrain-IS研究では脳科学の成果を最大限に取り入れつつも、厳密な(それは時として表層的な)神経系の模倣にこだわらず、大胆に発想を飛躍させて空白を補い、まるで脳を持つ生物のように動く知的システムを作ってしまおうというものです。そのためには、発想の妥当性を数学や理論で証明することも必要でしょう。あるいは「自律ロボット」という身体に埋め込んで、実環境の中で実効性を示す必要もあるでしょう。ありとあらゆる発想の柔軟さが求められるはずです。こうした柔軟な発想を通じてこそBrain-ISが実現できるでしょうし、またその成果は必ず脳科学にとっても有用な視点を与えるものとわれわれは考えています。

Brain-Inspired Systems には、もうひとつの意味があります。それは「脳が息吹を吹き込んだシステム」という意味です。われわれ生物が「魂を持っている」という言葉で表現したくなるような何かを持っていることは間違いなく、脳がそれに大きく寄与しているのも間違いのないことでしょう(もちろん魂の存在を肯定するわけではなく、そのような言葉で表現したくなるような動物特有の能力や活動のことです)。すなわちBrain-IS研究では、わたしたち自身もまた自然が創り上げたBrain-ISとみなします。そしてBrain-IS研究はわたしたち研究者の原点、つまり生き物というものへの不思議、知能や意識といったものへの魅惑や驚異にわたしたちを連れ戻し、いかに実証的にアプローチするかを問いかけるものなのです。